♯W 夏

太陽の光が、惜しげも無く降り注いでいた。
どこまでも広がる大草原の草はうっとうしいくらい伸びて、子供の腰あたりまであった。
その先に小川が流れていた。川幅はそれほど広くなく、流れは平らな大地を削り、僅かに落ち込んでいる。
小川の横にホヴァーホイール(:浮遊二輪車のこと)が止まっていた。
青い空はどこまでも続いていた。終わりのない青空は、お椀のように大地を覆い、そこには薄い雲が浮かんでいる。
その空を、運転手が草の上に座っていた。両足を前に出し、後ろに手をついて見上げていた。
運転手の外見は、十代半ば。銀色の髪にバンダナを巻いている。端正な顔。白いシャツを着ていて紺のスパッツをはいている。
「暑いねー、ナヴィ。」
ナヴィの隣にちょこんっと置かれているカクタス(参考:一部の国ではサボテンと呼ばれている)が言った。
「暑いねー、ソロ。」
ナヴィは、ソロに応えた。
「ナヴィ、こんな暑い日になんでわざわざ外に出たのさ?お日さまはどかーって照っているし、風も全然ない。これじゃ萎れちゃうよ。」
「まぁまぁ、そんなに怒らない怒らない。世界中きっとこんなのだよ。」
「だとしても、そのどっかの家にはきっとクーラーとか付いてるよ。」
「でもうちにはそんなの付いてない。だからここへ来たんだよ。」
「ここも暑いぃぃぃ。」
ソロが恨めしそうに言った。
「確かにね。」
ナヴィは、苦笑いを浮かべて草の上に大の字で寝転がった。
青い空に浮かぶ雲は、ゆっくりゆっくり亀よりも遅いようなスピードで流れていた。
風はない。小川はさらさらと流れ、光が反射している。
太陽の光がナヴィの眼に刺さり、一瞬、ナヴィの視界センサーがいかれた。
「うわっ。」
「大丈夫?」
「・・・・・。うん・・なんとか。」
「それは、よかった。」
ナヴィは、眼をごしごしこすりながら起き上がった。
大粒の汗が、髪から頬へ滴る。ナヴィは、何か思いついた様で、汗を拭おうともせずに小川の方へ歩いた。
小川には、透明の水が流れていた。その流れは、緩やかだった。
ナヴィは、両手で小川の水を掬い上げた。
それを顔にぶっ掛けた。
小川の水は、熱がこもった顔を一気に冷やした。
「気持ちいい。」
バンダナを外して、濡らした。それを濡れタオル代わりにして、首を拭く。
「ふう。」
ナヴィはバンダナを畳んでその辺に置いた。そしてブーツを脱いで、裸足になった。それから川に入る。そして屈みこんで、水位の低い川に手を浸した。
冷たい水が染み込む。暑い身体が心なしか涼しくなっていく。
ナヴィは、徐に水を手の平いっぱいに掬い上げた。手の中で水が揺れている。
「それっ!」
そしてその水を思いっきり空に放った。
浮かび上がった水は、重力に従い再び大地に落ちようとする。そのとき、一塊の水は、ばらばらに砕け散り、小さな水の玉へと変わった。
そして。水の玉はナヴィの頭上に落ちていった。
「あはは、綺麗。」
ナヴィは、何度も何度も、掬い上げては放った。
水の玉は、太陽の光に乱反射して、輝いていた。

「ずるいよ、一人だけ涼しい思いして。」
ソロが、少し刺のある口調で言った。
「ふふ。そんなあなたに。スペシャル大サービス。」
「?」
ナヴィは、畳んだバンダナを川に浸した。しばらくして水を含んだバンダナをソロの上にやり、バンダナを絞った。
溢れ出る水滴が、ソロを濡らした。
「うわぁ、涼しいー。」
「ね?気持ちいいでしょ?」
「うん!もっぺんやって!」
「はいはい。」
それから数回同じことをナヴィは繰り返した。

夜になった。
溢れそうなくらい降り注いだ太陽の光は、今はもう無い。変わりに僅かな月明かりが夜の草原を照らしていた。
小川の周辺の空気はひんやりとしていた。
「涼しいね。」
「うん。ちょっと肌寒いかな。」
ナヴィは、空を眺めていた。無数の星が、静かに灯っている。
「まだ行かないの?」
ソロが訊ねた。
「そろそろいこっか。風邪引くしね。」
ナヴィは、起き上がった。それから大きく伸びをした。
ナヴィは、ソロを持って、ホヴァーホイールにまたがった。
後ろの荷台にある窪んだ個所に、ソロの植木ばちを刺しこんだ。
「では、出発。」
ナヴィは、エンジンをかけた。
今ごろになって涼しい風が、吹いた。

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