♯U 訪問販売

「・・・・。」
何を言えば良いか、ナヴィには分からなかった。
「いかがでしょうか?」
販売員は、にこにこと、これ以上ないくらい人当たりの良い営業スマイルを浮かべながら、訊ねた。
「・・申し訳ありませんけど、私達は、この商品を必要としません。」
「そうそう。うちには全然まったくいらないよね。」
販売員は、残念そうな顔をして、すぐにまた笑顔に戻り、
「そうですか。では、また必要になったときにでもこちらに連絡してください。いつでもお待ちしています。」
販売員は、ナヴィとソロに会釈をして、『スカイブルー』のドアを押した。カラン、とドアの上にあるベルが鳴る。
販売員は、外に止めておいた大きなトラクターに乗った。
しばらくして、エンジンのふかす音が聞こえ、すぐにトラクターは、大草原を走っていった。
トラクターの音は、しばらく響いていた。

開店日三千六十一日目 曇り

お昼ご飯を食べ終えて、ぼーっとしていると外から何か、うるさい騒音が聞こえてきた。
「ん?なんだろ?」
「エンジンみたいだね。」
私の座っているテーブルにいるソロが答えた。
「エンジン?」
「そ。これは結構大型の車、トラクターか何かじゃない?」
トラクターのエンジン音(かもしれない)が大きくなってきた。大きくなってきて、止まった。
「どこかで止まったね。」
「この辺じゃない?」
「お客さんかなぁ?」
「だといいねー。」
カラン、とドアの鳴る音がした。
一人の人間がやってきた。

「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃい。」
私とソロは、久しぶりのお客さんに挨拶した。
お客さんは、男の人だった。年齢は三十後半。短く刈り上げている髪に、黒のスーツを着ていた。
「こんにちは。ステキなところに建っているお店ですね。わたくし、訪問販売をしている×××社の者です。」
私はそれを聞いて、少しがっかりした。
「お客さん、でもないね。」
ぼそっとソロが言った。
気を取りなおして、私は言った。
「えと・・私達は、そういうのはお断りなんですが・・。」
しかし販売員さんは、微笑を浮かべて、
「いえいえ、そんなことを言わず、とりあえずカタログだけでもみてください。」
右手に持っていた黒い皮の鞄を開け、中から取り出したカタログとやらを、私に見せてくれた。
私はすごく困ったが、
「ナヴィ。久しぶりの人間さんだし、見るだけ見たら?」
ソロが言った。販売員さんも便乗する。
「そうです。そのカクタスさんの言う通り、とりあえず見てください。見るだけならただですよ。」
私もこれ以上、何も言えず、そのオレンジのカタログをとりあえず頂いた。こんなところまでわざわざセールスにきてくれたんだしね。見るだけならいいか。私はそう思った。
私は、とりあえず販売員さんに椅子に座ってもらった。お茶はいかがです?と聞いたら、丁寧に断られた。
私が貰ったのは、A5サイズの薄いカタログだった。
私は、それをめくった。
カタログには、大きな字と、綺麗な写真がいくつも掲載されていた。
『今ならお買い得!水素爆弾一つに生物ウイルス一パック付き!』
「・・・。」
私は無言のまま、カタログを読んだ。
『あなたは、家にちょっとした大きな湖を作りたいと思った事がありませんか?この超高性能爆弾×××はどんな陸地でもあっという間に穴をあけることが出来ます。その大きさ、国一つ分に匹敵する大きさです。使い方はとても簡単!まず―――』
『陸の乗り物に飽きたそこのあなた。そして、空を舞う鳥達にあこがれるそこのあなた。これに乗ってみてはいかがでしょう?その名も×××!限りのない澄み切った空を自由に舞うことはもちろん、大型長距離爆撃機なので、リアルシューティングゲームも楽しめます。隣のむかつく住人の家を焼夷弾で消し去るのも良し、メインストリートをごみの様に歩いている人間に機銃を打ちまくるのも良し。いろんなプレイを楽しめます。今ならサービスで原子爆弾二つもサービスして――』
『愛くるしいペット。欲しいのにさまざまな環境がそれを拒みつづけられるそこのあなた!×××は、そんなあなたにお勧めの生き物です。必要なセットと僅かなスペースで、もう簡単です。しかも、すぐに赤ちゃんが生まれるので、毎日の育児日記が楽しみ!さらにこの子達を外に出してあげれば、半径三千キロの範囲に生息する生物は、一瞬のうちに全滅します。食欲旺盛ですぐにそこの死体はなくなるので、とってもクリーン。今ならスターターセットがとってもお買い得!さぁ仲間に自慢しよう――。』

他にもいろんな商品があったけど、日誌に書ききれないので省略。
「どうでしょう?アフターサービスも万全ですよ。二週間以内なら返品可能ですし、故障なら二年間保証できます。」
「・・・。」
ちらっとソロを見たが、ソロは何も言わなかった。
何を言うべきか、どうするべきか私にも分からなかった。
それでも相変わらず笑顔で聞く販売員さん。
「いかがでしょう?」
私はカタログを閉じて、ふーっと一つ息を吐き、
「・・申し訳ありませんけど、私達は、この商品を必要としません。」
「そうそう。うちには全然まったくいらないよね。」
私とソロが、そう断ると、販売員さんは、残念な顔をした後、すぐさま微笑を浮かべ、
「そうですか。では、また必要になったときにでもこちらに連絡してください。いつでもお待ちしています。」
販売員さんは、よろしければそのカタログをお持ちください、と言って、椅子から立ち上がり、この近くに国はありませんかと訊ね、私がいつも買出しに出かけている一番近い国を言った。
販売員さんは、会釈をして、帰っていった。
後で見たら、ソロの言った通り、大きなトラクターが、西へ走り去った。
私はふと、自分と違って空を飛ばない乗り物だからかなり時間が掛かるんじゃないかと思ったが、そんなことどうでもよかったので、気にするのを止めた。
晩ご飯はお肉を揚げた。オリジナルのソースと良く合った。今度からソースにはトマトも入れてみよっかな。

ナヴィは日誌を書き終えて大きく伸びをした。
ナヴィは机においてあるあのカタログを手にとった。ぱらぱらとめくった後、ごみ箱に捨てた。
水色の水玉模様で小さなごみ箱だった。

スカイブルー 〜開店休業中〜